機能ベースの設定作り──「場」を作る意識

「場」を作る人間というのにずっと憧れていたし、そうあろうとしてきた。

ここでいう「場」とは、単なる物理的な空間ではない。人に特定の行動を促す環境を指す。アフォーダンスと言い換えることもできるかもしれない。

例えば、空き地はそれだけでは「場」たりえない。だけども、そこにバットとボールを持ち込めば、空き地は唐突に「場」に変貌する。野球を促し、楽しさを生み出す「場」だ。

物理的空間だけを指して場といいたいわけでもない。何かをしたくさせる、あるいはすることを可能にする環境が場である。つまり部活やクラブといったような集団、ほかにイベントのような時間、このようなものも場だ。

強調したいのは、単に空間や集団、時間があるだけではいけないということだ。誰かが何かを仕掛け、集まった人々を方向付けることで、そこは初めて場となる。

例えばだらけていて張り合いのない部活動があったとする。これは集団であるけれども、場としての機能は十分に発揮されていない。十分に人々の行動を方向付けられていない(どこでもできるようなことばかりさせている)からだ。

そこで、部活動を充実させるために、イベントを企画する。そのために人間関係を調整したり、必要な物資を手配したりする。主導のためにリーダーシップを発揮する。これらはすべて場を作る行為といえよう。そういった行為があって初めて人々は方向付けられ、場が十分に機能を持って成立する。

まあ要するところ、作り上げようという意思なしには何も生まれないという当然の話なのだけど、これが創作にも当てはまるな、というのをずっと感じている。設定・キャラクターを作成する営みを「場を作る行為」と捉え、「その設定が一体何を可能にするのか?」と問うこと重要なのではなかろうか。

オッドアイ、白髪、心に闇がある、この世界には過去優れた文明があって──単に自分が好きな設定を並べるだけでは、場は拡張されない。大喜利をやっているようなものだ。それ単体で面白く感じても、その先に繋がらない。どうにも物語を書きにくい。

一方で、こう考えるとどうだろうか。世界観設定を語らせるために、おしゃべりなキャラクターを作ろう。あるいは、戦闘キャラはすでにたくさんいるから、推理系の仕掛けを運用できるようにするために、頭脳系のキャラクターを用意しよう。かっこいい演出を可能にするために、魔法には詠唱が必要だということにしよう──必要性・可能性から逆算してキャラクターと設定を考えるだけで、一気に物語が作りやすくなってくる。

今の物語では何ができないだろか、あるいは何をできるようにしたら楽しいだろうか。そこから考えて、それを可能にする仕掛けとして設定やキャラクターを作る。これは場を作る意識だろう。

特にシェア・ワールドなどの共同創作ではこの意識が役に立つと思う。単に自分の設定を使ってくれと広告するだけではなく、自作の設定が何を可能にするかを明確にし、そしてそれを実際にやってみせる。すると、「自分もやってみたい」と思った他の参加者がその設定に参加する。役割や機能を明確にし、実演することで、他の参加者に行動を促すというわけだ。

場の参加者は他人でなくても良い。未来の自分のために場を作るという意識も重要だ。特に複数話に渡る話などを書くときは、未来の自分のために場を作っていくことを意識しないと、物語が途中で行き詰まる。ここでいう場とは物語の展開可能性であり、場を作るために必要な機能を、キャラクターや設定に意識して持たせなければいけない。

もちろん、ここまで書いたことは全く常識的なことでもある。キャラクターを機能性で考えるということは、物語分析の常道だ。これはどちらかというと、新しい発見の報告というより、物語の書き方を学ぶときと、自分が創作で行き詰ったときのための備忘録である(このブログの目的がそもそもそうなのだけど)。

特に設定やキャラクターの役割を学ぶことにおいて、抽象された理論というのはあまり役に立たない。物語論では一般性を見出すために機能を抽象化しすぎるきらいがあるし、なにぶん著者の立場に立っていないから、「創作の上でその機能がどのように有用か」という視点が欠けている。だから意外と、物語論の類型だけをあてにすると拡張性が低い(ロシア民話を書きたいというのなら話は別だけども)。

だから、「いかなる設定がどのように役立つか」を学ぶためには、実際の物語の鑑賞の際に「この設定やキャラクターが何を可能にしていて、それが物語制作上どのように有用か」を分析し、レパートリーを蓄積していくしかないのだろう。

例えばワンピースの主人公、ルフィの短慮さ・奔放さともいえるキャラ付けは、強い力を持つ彼を仲間から分離させ、物語に谷(苦境や緊張)を作ることに一役買っている。同様にワンピースのログポースという設定は、「島に一定期間滞在する」という物語上不可欠な前提を満たす機能をもっている。他にも、コメディリリーフであったり、二つ名やあだ名を語るなどといった限定的な役割も考えられる。

こうした視点で考えると、いわば定型とも化しているキャラクター像、あるいは設定がどれだけ合理的なものなのかと驚かされる。

やれやれ系主人公は、どんな状況でも冷静に状況を整理しつつ語ることができ、読者に頭脳戦の面白さが伝わりやすくなるという機能を持っている。転生者という設定は、現代の目線でファンタジー世界を語ることを可能にし、現代的な比喩や表現を用いることに合理性を与えて読者への伝わりやすさを高めている。「桜の精」は別れを合理化し、切ない展開を生み出すために不可欠だ。

だからこそ、定型を用いようとするならば、その定型の役割を意識しなければならない。定型だけだして役割を全うさせないのならばただ既視感が残るだけだ。それに、定型の役割を意識すれば、役割を維持させたまま定型からずらしたキャラ・設定設計を行うことだってできるだろう(桜の精と重病を抱える恋人は機能的に大体同じものだが、表面上全く別物である。では、賞味期限が近いプリンの化身なんてものもありかもしれない)。

話が拡散してきたので最後にまとめると、設定・キャラクターを作成するときは、場(可能な展開のバリエーション)を作るという意識のもとに作った方が物語が作りやすいし、シェア・ワールドや二次創作もやりやすくなる。分析の際もこれらの機能に着目することで、書くことのできる物語のバリエーションを増やすことができるだろう。

これからも発見した機能については、個々に記事を書いていきたい。まずはにっくき「桜の精」から……

部屋にものを増やせ

筆が進まないとき、大抵はそのシーンの舞台であったり、登場人物の人間性なんかをきちんと設定できていない、あるいはイメージ出来ていないことが多かったりする。

そういうときはきちんと舞台についての情報を集めたり、登場人物になりきって鏡の前で演じてみたりすると解決につながるのだけど、正直集められる情報には限りがあるし、全てのシーンに対してそんなことをやってはいられない。

だから大事なのは、部屋にものを増やすことだと思う。

これは現実のあなたの部屋にものを増やせということではなくて、舞台にものを増やすということだ。

 

もう少し話を具体的にする。

私はキャラクターのセリフややりとりから考える性質なので、あるシーンを書こうとすると、鍵かっこ付きのセリフをひたすら羅列してしまうことが多い。

だが当然、これはいけない。稚拙に見えるし、なにより動きがなくて視覚的につまらない。シーンに時間幅が生まれず、登場人物たちがまるで機械的にまくし立てているように見える。セリフの価値が下がる。

だからセリフの間に何か地の文を挟んで、いい塩梅にセリフと地の文のバランスを整えようと画策するのだけど、この作業がとんでもなく苦しい。

主人公が色々と戦略を練ったり、葛藤したりしているのであればまだましだ。その思考を地の文に落とし込めばいいから。

新しい舞台に来たのであれば、あるいは新しいキャラクターが登場してすぐなのであれば、これも楽だ。セリフ間の空隙は、舞台やキャラクターの様子を描写し、読者のイメージを膨らませる用途に充てればいい。

何か危機に対処しているのであれば、むしろセリフではない動きが主体になるはずだから、地の文に困ることはないだろう。

だけども全てのシーンが上の三つに当てはまるわけではない。もっと一般的な会話シーン──例えば何度も登場するキャラクターと、いつものオフィスで話をする──では、地の文で何を語ればいいのだろうか。語ることなんてほとんど残されていない。だからもう、何かしらキャラクターを動かすしかない。

そうやって無理やりキャラクターを動かした結果、登場するのはきょろきょろと視線を動かし、ものを爆食いし、暇があれば息を吸い込んだり吐いたりする落ち着きのないやつである。こんなはずじゃなかったのに。

 

──と、以上が私の悩みごとだ。

もちろん前提として、なるべくシーンには動きを出し、ただの会話シーンは減らすようにしている。セリフで語る必要のないことは地の文に押し込むようにもしている。だけどもどうしても、会話の羅列というのは必要になってくる。

そこで最近気づいたのが、キャラクター設計と舞台設計の段階から、このセリフとセリフの間を埋めやすくなるように、要素を多めにしたほうがいいということである。

無味乾燥なオフィスには、コーヒーマシンを配置し、太陽光で青っぽく褪せたポスターなんかも貼って、文字が染みついたホワイトボードを放置する。椅子はキャスター付きのものにしよう。そうすれば、コーヒーを淹れさせたり、風が吹き込んでポスターが落ちたり、ホワイトボードの内容が気になったり、椅子を蹴っ飛ばして後ろに滑っていくことだってできる。

せわしないキャラクター問題の本質というのは、行動のレパートリーが少なく、読者が違和感を感じるくらいに同じことを繰り返していることだった。ものもなくできる行動は限られているからだ。だから、部屋にものを増やして、行動のレパートリーを増やす。そうすると、一気に会話が書きやすくなってくる。繰り返し登場するモチーフは比喩的にも使えるから、これは結構便利な手段だ。

同様に、キャラクターにも行動のレパートリーを増やす要素──すなわち、癖や持ち物、身体的特徴などを増やしてあげる。そうすれば、そのキャラクターの登場するシーンは、格段に描きやすくなる。

舞台やキャラクターの設定を詰めようといわれても、何から考えればいいかわからないことは多いだろう。自分を含めてそういう人は、逆算的に、会話シーンを書きやすいよう舞台・キャラクターを作るという発想を持ってみてもいいかもしれない。どちらの発想からでも、上手く要素を増やすことができれば、書きやすいだけでなく、物語全体に独自の色を与えることにも繋がるだろう。

新前提 × 意図不明の仕込み【PSs】

概要

  1. 事前の仕込み
    1. アイテムの用意・子細工など
    2. 読者にとってその意図は不明(後述)
  2. 課題の発生(危機)
  3. 新前提を開示・仕込みを利用して解決

意図不明

なぜ読者に意図がわからないかというと、その仕込みの効果を予想するときに知っておかなければいけない前提を読者は知らないからである。

例えば、拾っていたどんぐりは「爆発どんぐり」だった、偽装したバッジは貴族の子息を表すものだった、デス・ビーにはさっき塗りたくった暗黒あんこに集まる習性がある、など。

言い換えれば、課題解決の鍵に、「読者の知らないその世界の設定」を利用する、ということである。

注意と用法

新前提を利用する以上、納得感は少ない。あまり引っ張った状態で使うとあと出し感を与え、読者の期待が一気に冷めることになる。

序盤にメリハリを与えるための小さなイベントや、より大きな危機の前の見せかけの解決、ここで提示した新前提が今後の課題解決の伏線になっている等、あくまでサブウェポンとして使うことになるだろう。