キングスマン【感想】

キングスマン(2014; 原題:Kingsman: The Secret Service

※ネタバレあり

 

「これが俺の好きなスパイ映画だ!」「俺のサイコーのアクションを見よ!」という気概を感じる映画で大変面白かった。埋め込みチップによる最悪の花火のシーンを今後忘れることはないだろう。

スパイ映画へのアンサーとしてのスパイ映画、という側面があるので、色々とスパイ映画を見ていればより楽しめるかもしれない。一応自分もスパイ映画は数作見たことがあったので、この点に The Cabin in the Woods (2012) にも似た面白さを感じることができた。

内容的にはかなりピーキーな作りともいえよう。アクションを映えさせ、スパイをカッコよく見せるために、筋立ての合理性はかなり犠牲になっている(風船で大気圏を目指すな)。テーマはないわけではないものの、幹というよりむしろ全体の形を整える添え木に近い。「成長の感動や高尚なテーマ性というのは一旦横においておいて……スパイアクションで魅せるんじゃい!」という心意気の表れだろう。

 

構成的には三幕構成──というより、BS2にかなり忠実な作品だと感じた。特に第一幕でしっかりStCを決めてきた(CatではなくFoxだったけど)のには、あまりに優等生すぎてくすりと笑ってしまった。逆に逸脱しているのは、①第一幕がやや長い点と、②第二幕後半が短めな点か。

①について、第一幕はオープニング(過去編)に加えて、キングスマン側の活動紹介と主人公の生活の紹介を両方済ませてしまう必要があり、内容だけ見れば情報の濁流になりかねないものだった。そこで視聴者を退屈させないために、アクションシーンをかなり多めに仕込んだ(プール教皇理論)結果、やや長めになったのだと勝手に予想する。

②について、第二幕後半は主に主人公の成長が描かれるフェイズなわけだが、そもそもこの映画、先に述べた通り主人公があんまり成長していない──というかそもそも最初からある程度完成している。主人公の悪癖といえば自分の不幸を他人のせいにしていたというくらいで、それもまああの家庭環境なら仕方ないところがあるだろう。すぐ非行に走るという弱点が一応象徴として用いられているが、これもそこまで強調されているわけではない。

一応内容的な面に着目してMP~2TPを書き出すと、以下のようになるだろう。

  1. MP(失格からの追放)
  2. 迫りくる悪い奴ら(進むVの計画、車を盗んで義父のもとへ)
  3. 全てを失って(教会の事件)
  4. 心の暗闇(アーサーの勧誘)
  5. 2TP(勧誘拒否と作戦開始)

この中でまともに課題解決ストロークが生じているのは4~5だけで、しかもこのストローク中のラリーは最低限の2本しかない(一応「変な味」の伏線を使って確実にこのラリーを決めに来てはいる)。2は一瞬で終わるし、3は主人公の関与しないアクションシーンだ。この映画で第二幕後半は成長というより「戦う覚悟をより固める(そもそも戦う気だった)」程度の意味合いしかない。

だからこそ、通常2TP直前に設けられる展開的な面白みは第三幕に預けられている。

第三幕は各課題(脱出せよ! / 生体認証を阻止せよ!)のラリー数も(正確には数えていないけど)多めだ。最大の危機と絶望は成長関係なく単に両サイドから大量の敵に挟み撃ちにされたから発生しているし、その解決策は序盤の伏線を回収するという形で説得力を確保している。

SB2は成長譚を念頭に作られているから、たまたま「心の暗闇」と「最大のピンチ」が一致しているが、実際これが一致するとは限らないという好例だろう。SB2の第二幕後半はあくまで、次の二つのルールを最高効率で達成するための手法と言える。

  1. 緊張と興奮管理の観点から、最大のピンチは最終決戦の直前(クライマックス)におかれなければいけない。
  2. 成長ストロークの観点から、成長と変化の前には絶望や最後の誘惑(葛藤)がなければいけない。

だが、必ずしもこの2つを一致させる必要はないし、この映画は実際それを分離して見せている。

 

ほか気になった点としては、「○○し続ける」系のラリー数がある。

線路に縛り付けられるシーンでは、「断り続ける」ことがアクションになっているのだが、ここのラリー数は6本(つまり、3回断っている)だった。一方犬を撃つか迷い続けるシーンは、大体10本(銃 ⇔ 犬の顔のラリー)だ。

後者はセリフなしに画だけで語っていることに留意するとして、実際小説でやるならば6ラリーくらいが緊張感を高めるのにちょうどいいだろうか。

そもそも「ひたすら○○し続ける」というシチュエーション自体が小説にあまり向かない気がする。映像作品では「時間ギリギリ」が視覚情報で直感できるが、小説ではそうはいかない。今後は、こういった「制限時間ギリギリまで頑張る」ことが解決になる課題解決ストロークが小説で利用されることがあるのか、利用されるならどのように描かれるのか、「迫る制限時間」をどのように表現すれば効果的に緊張感を高めることに繋がるかを意識しながら物語を読んでいきたい。

また、訓練の様子や絆の形成を短いショットの連続でさらっと流しているのもかなり映画ならではの表現だと感じた。小説でも似たようなことができれば便利だと思うので、今後可能かどうかを検討していきたい。

今回の中で、以下の展開は応用・定型化可能だと感じたのでメモとして残しておく。これらについては今後もう少し考えたうえで、個別のページでまとめたい。

  • みせかけの敗北
  • バックグラウンド
  • だましうち
  • 相手のツール
  • 多数の内の残りの武器
  • 危機明示よりも先んじて
  • 制限時間ギリギリまで頑張って
  • 作戦の失敗(味方未満の裏切り)
  • 主人公の知らない手段(と手遅れ)
  • 試しただけ
  • 善人ゆえに